先住民学の研究者であるカール・ワルドマン氏は、アメリカ・インディアンが暮らす広大な北米大陸を大きく10の文化圏に分けています。その内の8つの文化圏がアメリカ合衆国内にあります。①大平原部・②北西沿岸部・③高原部・④大盆地部・⑤北東部・⑥南東部・⑦南西部・⑧カリフォルニアの8つです。
なかでも映画などで、「インディアン」のイメージとして舞台となる文化圏は、ほとんどが①大平原部・②北西沿岸部・⑤北東部・⑦南西部の4文化圏のようです。映画『ダンス・ウイズ・ウルブズ』で描かれたインディアンの暮らしは「大平原部」のものです。
文化圏によってまったく違った生活環境ですので、それぞれ独自の暮らしや文化をはぐくんできましたが、のちにヨーロッパから来た白人の影響により、現在の生活や文化へと発展してきました。
そこでこの記事では、大平原部・北西沿岸部・北東部・南西部で生活するアメリカ・インティアンの暮らしや文化の違いについて簡単にまとめてみました。
参考文献 :「ネイティブ・アメリカン -先住民社会の現在」著)鎌田遵(岩波新書)
大平原部で暮らすアメリカ・インディアン
地域:大平原部とは
カナダのマニトパ州、サスカチユワン州、アルパータ州から、アメリカのモンタナ州、テキサス州南部までの文化圏。
大平原部の部族
ブラックフット族、テトン・スー (ラコタ)族、サンティー・スー (ダコタ)族、ナコタ族、シャイアン族、クロウ族、ポーニー族、マンダン族、コマンチ族など。
リンク:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
大平原部の暮らしと文化
多くの人がイメージする「典型的なインディアン」が、この大平原部に住む平原インディアンです。馬にまたがってバッファローを追い、その肉を主食とし、皮でティーピー(住居)を作って移住生活をしていました。そして、羽根冠をかぶり騎兵隊と戦っていたのは、数ある部族の中でこの「大平原部のインディアン」だけだったそうです。
なかでも代表的な部族は、映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』で主役となった「スー族」です。スー族はもともと「北東部(森林地帯)」で生活していたのですが、鉄砲で武装した隣のオジブワ族に圧迫され、大平原部に移動してきました。
スー族の中でも本格的に大平原部に進出したのが「テトン族(別名:ラコタ族)」で、アメリカ・インディアンを代表する部族です。みなさんが「インディアン」という言葉からイメージする姿は、おそらくこのラコタ族に由来するものでしょう。
また、この大平原部にはラコタ族のような狩猟部族のほかに、川のほとりに「アースロッジ(住居)」を作って定住し、半農半猟の生活をする「マンダン族」「アリカラ族」「ポーニー族」などの人たちもいました。彼らは狩猟部族による攻撃をたびたび受けてました。
記事 インディアン関連記事一覧『アメリカ・インディアンに学ぶ』
北西沿岸部で暮らすアメリカ・インディアン
地域:北西沿岸部とは
アラスカ南西部からワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州北部周辺までの文化圏(付近の島々も含む)。
北西沿岸部の部族
トリンギット族、ハイダ族、クワキウトル族、カウチャン族、マカ族など。
リンク:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
北西沿岸部の暮らしと文化
北西沿岸部は、大量の雨と暖かな気候によって山には樹木がよく育ち、森には野生動物が生息し果実が実る。そして、無数に流れる川には産卵のためのサケ、目の前に広がる海にはクジラやその他魚介類と、たいへん恵まれた環境にあります。
この地域で暮らすアメリカ・インディアンは、自然の恵みを十分に活用した生活を送っていました。森の巨木で漁のためのカヌーを作り、丸太を梁に使った「プランクハウス(ビッグハウス)」と呼ばれる立派な家を建て、その家の前には鳥や動物の姿を彫刻した巨大なトーテムポールを立てるなど、豊富な木材を生かした暮らしでした。
狩りや漁で暮らす人たちには大きな貧富の差は生まれないといわれていますが、この北西沿岸部の部族には「首長・貴族・平民・奴隷」といった世襲の階級が存在していました。そこで、一部の人たちに偏ってしまった富を分け与えるために、首長や貴族は「ポトラッチ」と呼ばれる祝宴をたびたび催し、ご馳走や贈り物で人々の結婚や出産を祝っていました。
また、首長が催す「ポトラッチ」には、ほかの村の首長や貴族を大勢招き、自分の裕福ぶりを自慢するといった「あきらかに威信を示すための宴」もあったようです。こうすることで、社会の安定を計っていたと考えられています。
海沿いに集落を形成する彼らは、現在も漁業や養殖業を営む部族が多く、カナダ沿岸部の部族とも関係が深いそうです。
ジョニー・デップ主演の映画『デッドマン』の終盤では、北西沿岸部の部族「マカ族」の文化や生活様式が描かれています。「人として生きるために大切なもの」を描いた、素晴らしい映画だと思います。
北東部(森林地帯)で暮らすアメリカ・インディアン
地域:北東部(森林地帯)とは
ニューイングランド周辺、五大湖およびカナダ南東部を含む文化圏。
北東部(森林地帯)の部族
イロコイ連邦(オノンダガ族、オネイダ族、カユーガ族、モホーク族、セネカ族、タスカローラ族)、ワンパノアグ族、ヒューロン族、オジブワ族など。
リンク:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
北東部(森林地帯)の暮らしと文化
現在は、ニューヨーク、シカゴ、トロントなどの大都会が点在していますが、かつては森林地帯で湖、川、森林などの豊富な資源にも恵まれ、部族ごとの文化も多様でした。日本で例えると「北海道から本州の中部あたりまで」の自然環境に近いようです。
森ではシカを狩り、川や湖ではカヌーを漕いで魚を捕り、村の周囲ではトウモロコシ、豆、カボチャ、タバコなどを栽培して生活していました。
この地域の部族は、アルゴンキン語族の言葉を話す「アルゴンキン語系」とイロコイ語族の言葉を話す「イロコイ語系」に分かれ、大半が「アルゴンキン語系」です。そして、組み立て解体が簡単な「ウィグアム」と呼ばれる住居で暮らし、季節の恵みを追って移動を繰り返す生活を送っています。
「アルゴンキン語系」の中でも最大の部族は「オジブワ族」です。彼らは樺の木を活用して、道具、容器、カヌーや、ウィグアムなどを作ったことで知られています。また、現在では世界的に有名になっている「ドリームキャッチャー」は、もともとオジブワ族の赤ん坊のためのお守りで、その枠には樺の小枝が使われていました。
一方、「イロコイ語系」は、五大湖東部に「ロング・ハウス」と呼ばれる長く大きな住居を作り定住していました。基本的に農耕民族で、狩りや漁もしますが、食物の多くは自分たちで栽培した農作物に頼っていました。
「アルゴンキン語系」と「イロコイ語系」の部族は仲が悪く、戦を繰り返していました。映画『ラスト・オブ・モヒカン』(Amazon)は、この時代の戦いを描いたものです。
記事 【おすすめ】関連書籍記事一覧『書籍紹介(アメリカ・インディアンの生き方・思想/心理学/日本人)』
南西部で暮らすアメリカ・インディアン
地域:南西部とは
アリゾナ州、ニューメキシコ州、ユタ州、コロラド州の南部、カリフォルニア州、テキサス州、オクラホマ州の一部とメキシコの北部をふくむ文化圏。
南西部の部族
ナバホ (ディネ)族、ホピ (モキ)族、アパッチ族、ズニ族、タオス族など。
リンク:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
南西部の暮らしと文化
この地域は、砂漠もしくは半ば砂漠に近い環境にもかかわらず、川のほとりやオアシスには豊かな水があります。現代では、世界的にも有名なコロラド川による浸食によりできあがった「グランド・キャニオン」や、「モニュメント・バレー」に代表されるメサと呼ばれる台地などがよく知られています。
この南西部に古くから住むインディアンを「プエブロ・インディアン」と呼びます。彼らは日干しレンガや石を使って建てた「プエブロ」と呼ばれる住居に定住し、農業を営んできた農耕民族です。主食であるトウモロコシや、カボチャ・豆・綿などを栽培してきました。
また、雨の少ない地域であったため、プエブロ・インディアンは 雨乞いや豊作を祈願するなど、さまざまな宗教儀礼を広めていきました。なかでも、現代に至っても伝統を受け継いでいる部族として「ホピ族」が有名です。
そして西暦1400年頃、カナダ付近から南西部へ移住してきたのが、狩猟部族である「アパッチ族」と遊牧民族である「ナバホ族」で、彼らは先住諸部族への略奪を繰り返し侵略してきました。
アパッチ族は、のちにこの地域に入ってきた外国人の村々も略奪し、アメリカ政府による支配に激しく抵抗しました。その中でも有名なのがみなさんも一度は耳にしたことのある、「ジェロニモ」の抵抗です。彼の活躍ぶりは数多くの映画で描かれました。
一方、適応性に優れたナバホ族は、プエブロ・インディアンから農業を習ったり、スペイン人から羊を手に入れ遊牧民になるなど、進歩を遂げました。とくに、持ち前の発想力の豊かさを生かした「工芸品」においては、ナバホ族の右に出る部族はいないと言ってよいほどの優れた作品ばかりです。
なかでも、もっとも有名な工芸品は、日本でも人気の「インディアン・ジュエリー」でしょう。「銀細工」と「ターコイズ」のコンビネーションがナバホ族のセンスの良さを際立たせます。ジュエリーのほかにも「陶器」「ナバホ織り」「バスケット」「砂絵」「カチーナ人形」など、さまざまな工芸品で知られています。
インディアン・ジュエリーは、近隣のホピ族やズニ族にも広まっていきましたが、現在は、一見してズニ族、ホピ族のジュエリーに見える作品も、ほとんどがナバホ製だということです。
そして、ナバホ族はグランド・キャニオン近くに全米最大の居留地を有し、現在は全米でもっとも人口の多い部族になりました。
まとめ
アメリカ合衆国内にある8つの文化圏のうち、主となる文化圏である「大平原部・北西沿岸部・北東部・南西部」で生活するインディアンの「暮らしや文化の違い」について簡単にまとめてみました。
「広大な北米大陸の “どこに” “どんな” アメリカ・インディアンが生活していたのか?」という疑問に答えることはできたでしょうか?
私も学んでいて、部族(正式に承認されている部族数は562部族)の多さに驚きました。昔から伝統を受け継いできた部族ごとの生活様式や文化、言語などは、移住や侵略(白人の影響も含め)を繰り返すことで勢力の強い部族に取り込まれてしまったのでしょう。
ー 北アメリカ先住民の歴史を学ぶなら、こちらの書籍がおすすめ! ー
【おすすめ書籍】
『ネイティブ・アメリカン 写真で綴る北アメリカ先住民史』BL出版
豊富な写真と解説、そして心に残る先住民の言葉で、ネイティブ・アメリカンの歴史が年代別に綴られた“おすすめのドキュメンタリー歴史書”です。
著:アーリーン・ハーシュフェルダー 日本語版監修:猿谷要 訳:赤尾秀子/小野田和子
参考文献 :「ネイティブ・アメリカン -先住民社会の現在」著)鎌田遵(岩波新書)
参考文献 :「インディアンの日々 生きることの迷ったら、インディアンの声を聞け」著)横須賀孝弘(ワールドフォトプレス)
記事 【おすすめ】アメリカ・インディアンの文化や世界観がわかる映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』と『デッドマン』
記事 インディアン関連記事一覧『アメリカ・インディアンに学ぶ』
記事 【おすすめ】関連書籍記事一覧『書籍紹介(アメリカ・インディアンの生き方・思想/心理学/日本人)』