前回の第5回『「売上50%アップ達成のための接客方法」は “ススメ売り”!』では、「ススメ売りとはどんな接客方法であるか」、そして「ススメ売りをするためには「勘」を養うことが重要である」ということにはじまり、実践順までを説明しました。
今回は、いよいよ「ススメ売り」の実践方法を公開します。まず、その前にひとつだけお話ししておかなくてはならないことがあります。それは、客へのアプローチの際に必要な「店頭演奏用の宣材について」です。
【アプローチのお膳立て】に必要な店頭演奏用の宣材について
「ススメ売り」をするためには、客に試聴していただくための「店頭演奏用CD」など、1点でも多くの音源が必要です。これがなくては「おすすめ」しても説得力がありませんし、「ススメ売り」のための環境作りもむずかしくなります。
そこで、ここでは上手な「店頭演奏用の宣材調達方法」について、簡単に述べておきます。
近年、「JASRAC」の著作権への取り組みが厳しくなっていますので、著作権法に触れる行為にならないように注意する必要がありますが、客に一度も聴いたことのないアーティストの作品を無理矢理すすめたところで購入してもらえるわけがありません。
やはり、実際に試聴の上、購入するか否かを客に判断してもらう必要があります。そのためには常日頃から、メーカーの営業担当者に1枚でも多くの「店頭演奏用CD」を融通してもらえるよう、上手に催促しましょう。これが著作権法を気にすることなく店頭演奏するための「一番良い方法」です。
また、メーカーが推しているアーティストや作品には、便乗して力を入れてあげましょう。営業担当者の成績に貢献することも、多少の無理なども頼みやすい関係を築くためには必要なことです。持ちつ持たれつの関係です。
例えば、あなたが他店よりも多く売りたいと思った作品(マイナーだが優れた作品など)があるときは、その旨を営業担当者に伝え、他店には配布されていない宣材や販促物を優先的に融通してもらいましょう。
そして、実際に他店とは比べものにならないくらいの販売枚数を達成すれば、それは店の実績となります。これを可能にするのも「ススメ売り」という販売方法をとっているからです。
実績を積むことで「店頭演奏用の宣材」の提供も増え、逆に営業担当者のほうから「今度はこれをお願いできませんか?」といったことも増えてきます。良い意味でメーカーの営業担当者をうまく利用しましょう。店舗売上を伸ばすための提案をすることが担当者の仕事なのですから。
しかし、どうしても準備できない試聴用音源については、著作権法に触れない範囲で工夫してみましょう。
また、「売りたい作品」「おすすめのアーティストの作品」に関しては、売上アップのために自腹を切って音源を用意するくらいの熱意も必要でしょう。
これが「ススメ売り」の実践方法!
では、いよいよ「ススメ売り」の実践方法について、順を追って説明していきます。
1. 来店客の動向を観察して「情報収集」する。【予習】
- 客にマッチした楽曲を店頭で流す。【アプローチへのお膳立て】
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ファースト・アプローチを試みる。【セカンド・アプローチへの前座】
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一旦離れて、再び客の動向を観察する。【予習の確認・情報収集】
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セカンド・アプローチ、さらなる情報を得るための対話を試みる。【本番】
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5のセカンド・アプローチで良い感触を得られなかった場合は、ススメ売りはやめる。うまく対話できるようになった場合は、7へ。【ススメ売り 可・不可の判断】
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あなたが「聴いて欲しい」と思った商品は、積極的にすすめる。【ススメ売り】
1. 来店客の動向を観察して「情報収集」する。【予習】
【予習】
まず、「ススメ売り」につなげるための情報収集をします。第5回の記事でも述べましたが、「何を購入しようとしているのか?」「次に何を手に取るか?」「音楽の指向は?」「社交的なタイプか?人見知りしそうなタイプか?」など、動向から少しでも多くの情報を得ていきます。
この予習は、できるだけ短時間で収集できるようになることが大切です。そして同時に、収集した情報から「何をアプローチのきっかけにするか?」「何をすすめると喜ばれるか?」など考えながら「ススメ売り」のシミュレーションをします。
まず、この作業を毎日繰り返しながら、必ず答え合わせをします。来店客は「予想どおりの商品を購入したか?」「予想どおりの動向を示したか?」など、答え合わせをしながら「勘」を養っていきます。
勘が養われ「自信を持ってアプローチできる」と確信が持てるようになるまで訓練します。いい加減な情報や、間違った情報によるアプローチは必ず失敗します。
2. 客にマッチした楽曲を店頭で流す。【アプローチへのお膳立て】
【アプローチへのお膳立て】
予習の段階で、まず試みることは「アプローチへのお膳立て」です。いったい何を仕掛けるのかというと、ターゲットにした客が「今、聴きたい」と思っているであろう楽曲を店頭で流すことです。
この仕掛けが成功した場合は、客の行動に何らかの変化が現れるはずです。例えば「音楽の聴こえる方向を見たり」「笑みがこぼれたり」「楽曲に合わせてリズムをとったり」と、おもしろいくらい行動で示してくれるのです。
さらに、客は勝手に「いま、探してた曲が流れてる!」「あっ、わたしの好きな曲だ!これって偶然?」「この曲、誰の曲だろう? 俺の好きなジャンルだけど」などと想像をめぐらせることで気分を高揚させ、自ら購入意欲をかきたててくれるのです。
このように、こちらの仕掛けにうまく乗ってきてくれた客に対しては「ファースト・アプローチ」を試みましょう。
逆に、仕掛けに対して「まったく反応を示さない」「まったく違うジャンルの商品に目を向ける」「きびすを返し、退店する」といった、明らかに故意と思われるような反発行動をとる客が希にいます。こういった反応を示す “へそ曲がりな客” に対しては、すぐにアプローチせず、もうしばらく様子をみましょう。
3. ファースト・アプローチを試みる。【セカンド・アプローチへの前座】
【セカンド・アプローチへの前座】
ファースト・アプローチは、「セカンド・アプローチへの前座」です。それはどういうことか?
「ファースト・アプローチ」では、軽くアプローチするだけで本気で接客はしません。すでに、あなたが仕掛けた店頭演奏によって、ターゲット客好みの楽曲が店内には流れています。それだけで少し良い気分になっているはずです。せっかく作り上げたその雰囲気を壊さないようにアプローチする必要があります。
間違っても、接客のために近寄ったことがバレてしまうような「露骨な行動」をとるのはやめましょう。客に身構えられてしまっては、ファースト・アプローチの失敗へとつながりかねません。ファースト・アプローチに失敗すると必ず客に警戒心を抱かれますので、次のセカンド・アプローチがむずかしくなります。
一番自然な方法は、商品整理などの作業を装って、さりげなく「そばに来たついでに、ちょっとお声かけしました」といったような印象を与えることです。
例えば、こんな感じで声をかけてみてはどうでしょうか。
– 店頭演奏中のCDを手に取って内容を確認しているような場合:「今、店頭で流れているのが、そのアルバムの○曲目の○○ですよ」とか「そのアルバム私も買いましたけど、すごく良かったですよ」などなど。
- 何か探しているようであれば:「お探しの商品とか、ちょっと聴いてみたいCDなどございましたら、いつでもお声かけください」といった具合に。
この程度の声かけをしておいて、一旦、客から離れます。そして、ステップ4の【情報収集・予習の確認】へ。
ただし、接近したときに客の方から声をかけてきた場合は、そのまま対話に持ち込み、流れの中で、ステップ7の【ススメ売り】ができる雰囲気作りをしましょう。
4. 一旦離れて、再び客の動向を観察する。【予習の確認・情報収集】
【情報収集・予習の確認】
一旦離れて、ファースト・アプローチでの客の反応を振り返りながら、予習した情報の正誤を確認し、情報を整理しながら再び客の動向を観察します。
このステップは、得た情報を元に「次の声かけのきっかけを何にするか」や、「おすすめ商品を何にするか」など、少しでも多くの対話のネタを用意するための時間です。この作業にかけられる時間の長さは客の動向次第ですので、あなたにはどうしようもありません。
ですから、できるだけ短い時間で頭の中の情報を整理していくことが重要になります。
また、「アプローチへのお膳立て」である店頭演奏も、継続して仕掛けていってくださいね。
そして、タイミングを見計らって本番とも言える、ステップ5の「セカンド・アプローチ」へ。
この「セカンド・アプローチ」へのタイミングは、接客に慣れてくると「今だ!」というポイントが簡単にわかるようになります。しかし、最初のうちはタイミングを逃し「あ〜あ〜、お客さん帰っちゃったよ(泣)」と、残念な結果になることもあるかと思いますが、この接客方法を毎日繰り返していくうちに、すぐに慣れてそんなこともなくなるはずです。
5. セカンド・アプローチ、さらなる情報を得るための対話を試みる。【本番】
【本番】
この「セカンド・アプローチ」が、勝負どころとなります。ここでは、ファースト・アプローチのような軽い声かけではなく「客と対話すること」が目的ですので、ステップ4で得た情報をフルに活用しましょう。
既に商品を手にしている場合であれば、そのアーティストや作品の話題などをネタにしたり、迷っているようであれば「勘」を働かせ、客が好みそうな商品を紹介してみたり、あるいは音楽とはまったく関係のない方向から話題を振ってみる(ベテラン技)など、少しでも多くの対話をし、さらなる情報を得るようにしましょう。
そして、とにかく「客が楽しいひとときを過ごせるような対話」に持ち込み、購入意欲がドンドン湧いてくるような雰囲気作りをしましょう。
ただし、注意しなくてはならないのは「話に夢中になりすぎて」客の購入意欲を逆に低下させてしまうことです。これでは本末転倒ですので、くれぐれも客のペースに持ち込まれることのないように「バランスのとれた対話」を崩さないようにしましょう。
このステップ5の「セカンド・アプローチ」がうまくいったところで、あなたのペースを保ったままステップ7の【ススメ売り】に持っていきましょう。
逆に、良い感触を得られなかった場合は、ステップ6の行動に移りましょう。
6. 5のセカンド・アプローチで良い感触を得られなかった場合は、ススメ売りはやめる。うまく対話できるようになった場合は、7へ。【ススメ売り可・不可の判断】
【ススメ売り可・不可の判断】
ステップ5で対話に持ち込めなかった場合、「ススメ売り」はあきらめた方が良いでしょう。その客を、「接客されるストレス」から解放してあげてください。その際は、不快感を与えないように笑顔で「ごゆっくりご覧ください」「いつでもお声かけください」など、一言そえて離れましょう。
このようなケースでは、「もう、来店はないかな?」と勝手に考えてしまいがちですが、意外と再来店はあるものなのです。そして、何度か来店するうちに「常連客」になってしまったというケースはよくあります。
こういった客は、接客されることが苦手なだけで、店や販売員を嫌っているわけではなく慣れが必要なだけのようです。その証拠に、慣れてくると客の方から話しかけてくるようになります。しかも人一倍よくしゃべるといった客を私は多数知っています。
ただし、接客されることが「本当にわずらわしい」と感じた客は、再来店の見込みは薄いかもしれませんが、それを恐れていては「ススメ売り」はできません。「そのような客を失うことの損失」と、「ススメ売りをすることで得られる利益」を天秤にかけた場合、後者のほうが比べものにならないほど有益です。
「ススメ売り」は、個人の小売店が生き残るための「最良の手段」だとお考えいただきたいと思います。
このステップ6で大切なことは、セカンド・アプローチやススメ売りを断念せざるを得なかった「客の顔を良く覚えておくこと」です。その理由は、もし再来店されたときに、初回と同じ対応をして失敗しないためです。
7. あなたが「聴いて欲しい」と思った商品は、積極的にすすめる。【ススメ売り】
【ススメ売り】
ここまでくれば、あとはあなたのペースで「この客に聴いて欲しい」と思うおすすめ商品を紹介し、既に手に持っているCDに1〜2枚プラスしていただくことで売上アップにつなげていきましょう。
ススメ売りの際、客が興味を示した作品に関しては、可能な限り「店頭演奏にて試聴してもらう」ことを忘れないようにしましょう。試聴して購入を決めたものであれば、客が後で後悔することも少なくなるはずです。
えっ? 「在庫が1枚しかない商品はどうやって試聴してもらえばいいんですか?」という声が聞こえてきそうですが、そこは自身でちょっと工夫してみてください。ただし、くれぐれも「押し売り」にならないように!
以上が「ススメ売り」の実践方法です。
ステップに分けて順を追って説明しましたが、この一連の流れは一般的な客の場合、意外と短時間でステップ7の【ススメ売り】まで実行されます。最初は試行錯誤しながらの接客になるでしょうから時間がかかるかもしれませんが、そのうち同時に数人の客を相手にできるようになってきます。
慣れるまでは、かなり勇気が必要な接客方法ではありますが、これをマスターし、自然な接客ができるようになれば売上げは必ずアップしていきます。試す価値ありです。
最後に
【CD店舗売上アップ術】第6回(最終回)“ススメ売り”を実践して「売上50%アップ達成へ」は、ここまでです。そして今回で連載は終わりです。
6回にわたり【CD店舗売上アップ術】と題して、「売上50%アップ達成のための接客方法」について準備から実践方法までを述べてきましたが、いかがだったでしょうか?
私がおすすめするこの「ススメ売り」という接客方法を、勇気を出して実践するかしないかはあなた次第です。実践すれば売上は確実にアップしますし、常連客(なじみ客)も自然に増えていきます。
「ススメ売り」を実践していた私からのアドバイスはただひとつ、この接客方法に「慣れること」です。
では、またお伝えしたいことを思い出したときは、記事をアップすることにします。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
あなたのお店の繁栄を願っています。お疲れさまでした。
【CD店舗売上アップ術】連載 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回(最終回)
音楽ソフト販売業の経歴はこちらにあります。